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技術ニュース

レコーディングエンジニアのプロジェクトスタジオ Daimonion Recordings


工事部  福満  英章、上原  薫


1.  はじめに


  Daimonion Recordingsは、HipHopからR&B系の幅広いレコーディング/ミックスを手がけながら、 ソロアーティストとしても活躍されているエンジニア・D.O.I氏のスタジオです。
  場所は渋谷駅から徒歩10分ほど。街中の喧騒から程よく離れつつ、交通の便の良いテナントビルの地下にあります。
  スタジオは、小規模ながらも完全浮構造のレコーディングブースとしての静けさを兼ね備えたD.O.I氏専用のメインコントロールルームと、 レンタル用コントロールルーム&サブブースで構成されており、ピュア音源の他、音響用の単独アースを設置する等、 電源周りの充実したスタジオになっています。


2.  難航した物件探し


  この計画は、物件探しのお手伝いから始まりました。
  D.O.I氏の活動拠点として「渋谷」という土地柄は必須条件でした。賃貸物件は数多くありましたが、 レコスタとして使用するとなるとその数は激減。さらに、気に入った物件に出会っても、事前測定・現地調査の結果、 地下鉄の振動が大きかったり、また十分な天井高がとれない等が原因でNGになってしまうことが続きました。 満足のいくスタジオづくりのためには、ロケーション、間取り、階高、騒音・振動や周辺環境等、妥協のない物件探しが大事です。


  今回のスタジオに求められた完全浮構造は、床・壁・天井で囲まれた固定構造の"Box"の中に、 防振・遮音の床・壁・天井、さらに仕上げの壁・天井といった2重構造の"Box"を収めていくため、空間が段々狭くなっていきます。 天井裏に空調機や消音機を設置しようとするとなおさらです。
  既存天井高が充分であることは大切な条件となるのですが(しかもD.O.I氏は180cmを超える長身・・・)、 当てはまる物件は思うようには見つかりませんでした。


  しかし、不動産屋さんを覗くことが日課になっていたD.O.I氏自らが全ての条件に見合う物件を探し出し、 やっとの事で具体的な計画をスタートできることとなったのです。


3.  プランニング


  今回の計画概要は以下のようになります。


<施工場所> 地上7階地下1階のテナントビル
地下1階部分
<立地条件> 地下鉄等の交通騒音・振動源なし
1Fカフェの歩行音対策が必要
<工期> '03.05中旬〜6月末
<コンセプト> ・ダイレクトにモニター音を聴きたい。
・音を判断しやすいスタジオにしたい。
・音響電源と雑電源は完全分離する。
・ノイズを作業エリアから遠ざけるため、空調機本体はロビー(通路)上に吊り、照明スイッチ(調光付)も通路側へ設置する。
・内装デザインはシンプルかつシックに。

表-1 諸元
竣工年月日 '03.06末日
床面積(m2) 天井高(m) 構造
コントロールA
(メインルーム)
18.0 2.2〜2.4 完全浮構造
コントロールB
(レンタル用)
14.0 2.3 天井、Sp.ステージのみ浮構造
ブース
(レンタル用)
3.5 2.4 -

平面図
図-1 平面図


断面図
図-2 断面図


4.  スタジオ作り


■間仕切から浮床施工


  7月にはスタジオ運用開始とのご要望から、急ピッチでの計画期間を経て、'03年5月19日に既存内装の解体から作業が始まりました。工期に余裕は全くありません。
  元々がお芝居用の練習スタジオということで、解体自体は大したボリュームもなく順調に進みましたが、配電盤に問題が・・・。 ビルが建ったのが30年以上前ということもあり、度々のテナント工事で配線がメチャクチャにこんがらがっていたのです。 これが電気屋さん大活躍!のプロローグとなるのです。


解体前のようす
写真-1 解体前のようす


  間仕切工事開始とともに悩まされたのが、現場の狭さです。さらに季節は梅雨入り寸前。 当然のことながらクーラーなんてある訳がなく、風の通らない地下空間は蒸し暑いを通り過ぎてサウナ状態でした。
  そんな環境の中、固定遮音壁ができ、浮床の施工となります。


  浮床は、当社独自の施工方法に改良を加えた新しい工法にトライしました。


浮床新工法施工中;大工さんの工夫により防振ゴムを合板にタッカーで止めています
写真-2 浮床新工法施工中;大工さんの工夫により防振ゴムを合板にタッカーで止めています


■充実の電源環境


  浮床コンクリートの気化熱にも負けず、既存の設備配管にも負けず、「順調」に工事が進んでいく中、 電気工事は当初の予想以上に大掛かりな物になってしまいました。


  施主であるD.O.I氏の「プライベートスタジオを持ちたい!」というモチベーションの一つでもある電源環境の充実は絶対に妥協できないところですが、 先述した通り既設の環境では到底無理がありました。
  しかし、大元には十分な容量が来ているということで、屋上から8階分のコアを抜き(当然耐火処理も!)、 太いケーブルで幹線から引きなおしました。これだけでも、結構な工事なのですが、当社の提案によりさらに音響用の専用アースを打つ事となりました。
  "アースを打つ"ということは、ある意味ギャンブル的要素を持っています。地盤によっては、音響専用アース=「良い音」と言う保証はありません。 逆に悪影響を与える場合も考えられます。また、現場は都会のド真ん中。ガス管や水道管を抜いてしまったら・・・。今考えても冷や汗ものです。


  最初は嫌がりながらも、最終的にはリスクを背負い、イチがバチかにかけてくれた電気屋さんのおかげで、 完成後に行った、専用アース、ビルアース、アースなしの比較試聴の結果、透明感がありヌケの良い元気な音が得られて大満足の評価をいただけました。


アース打ち込み中
写真-3 アース打ち込み中


EPS内:アースのあるなしを切り替えできるようになっています。床置きしてあるのはトランス
写真-4 EPS内:アースのあるなしを切り替えできるようになっています。床置きしてあるのはトランス


5.  仕上げから完成へ


  いよいよ仕上段階に入ると、内装デザインと共に、具体的に音場を作っていかなければなりません。


  デザイン的には、グレーや白などモノトーンが基調のシンプルな物にまとまりました。


  音場的には、既存の配管・仕上の天井高の確保などで吸音処理を行うための空気層を十分に取れた・・・とは言いがたいのですが、 低密度グラスウールをロール状にして放置したり、平使いで千鳥に置いたり、各所様々なトラップを作ったりと工夫を施し、限られた空間を生かせたのではないかと思います。


吸音層(仕上壁・天井)内部
写真-5 吸音層(仕上壁・天井)内部


  全ての工程が終了し、初めての音出し。音響アースの効果も完璧で、D.O.I氏の「ありがとうございました」の言葉に、 これまでの苦労も吹っ飛ぶ気がしました。なぜなら、D.O.I氏は、お気に入りのモニタースピーカ(MUSIK ELECTRONIC GEITHAIN RL900A)でサウンドを分析するのが趣味というくらい音にこだわっているエンジニアで、 高い解像度のモニター音場がお好みだったからです。
  ただ、何故か電気屋さんだけはアースの有無で音が変わるというのを実感できていないようでした(劇的に変わるのですが・・・)。


Control A;DM1000用コンソール卓もNOE製
写真-6 Control A;DM1000用コンソール卓もNOE製
Control B
写真-7 Control B

Control Bからブースを臨む
写真-8 Control Bからブースを臨む


6.  最後に


  実はこの現場、私(上原)にとって施工図作成から予算管理、現場管理というほぼ全ての作業を1人で担当する初めての現場でした。
  限られた工期の中、ハイペースかつハードではありましたが、D.O.I氏の「良いスタジオが欲しい」という熱意と、 快く残材置場や駐車スペースを貸してくださったビルの大家さんや各業者さんのご協力、そして何よりも現場の職人さんたちに支えられ充実した毎日でした。
  皆様の汗と忍耐力のおかげで、満足いただける&満足できるスタジオが出来上がったと感謝しています。



追記:Daimonion Recordingsは「Sound&Recording 2003年 11月号」(リットーミュージック)にD.O.I氏のインタビューとともに掲載されています。



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