STUDIO TANTA
1. はじめに
2006年3月31日、客席には100名を越える招待客の姿、ステージ上にはところ狭しと立っているミュージシャンと楽器の数々、 この日盛大な御披露目ライブパーティーが行なわれ、正式にSTUDIO TANTAがオープンしました。 それはパチンコ機器で全国的に有名な株式会社 平和の夢のスタジオとして...
上野駅前の一角に新築されたばかりの平和第二ビル、その地下1階にSTUDIO TANTAはあります。 お客様のところへ初めて訪問してお打合せをした時から、(株)平和 中島社長(現・相談役)のお話には、 一貫して音楽に対する情熱が一杯詰まっておられて、私はこれから造るスタジオに対して何よりもワクワクしたのを記憶しています(当然プレッシャーもありましたが...)。 『とことん音にこだわり、音に妥協のないものを造る』というコンセプトは、我々音響屋にとって理想的且つ夢のような仕事の環境・条件といえましょう。 今回、私はこのスタジオ造りの一員として、非常に楽しみながら現場を担当させていただきました。 その中身を紹介・報告させていただきます。
2. コンセプト及び概要
まず基本的なコンセプトとして、以下の3つの機能を有するスタジオ造りが求められました。
- ライブハウス
- レコーディングスタジオ
- イベントスペース
これらを満足させるレイアウトとして、我々が計画したプランを図-1に示します。

図-1 スタジオ プラン
まずはライブハウス使用時の条件として、100人程度の収容人員を想定し、メインスペースを中央に据えて、 それを挟むようにステージとSR・照明スペース(中二階)を配してライブハウス仕様としました。
また、メインフロアでの演奏をレコーディングするために、ステージのバックヤード部分に、 メインフロアを見渡せる向きにコントロールルームを配置しました。尚、バックヤード部分にコントロールルームを配置することで、 ライブ使用時には出演者の控え室として利用することも想定しています。
さらにイベント専用にオーディオ・映像システムを構築し、ステージ上には200インチのスクリーンを設置しました。 先の照明システムとも組み合わせれば、イベント使用時には多彩な演出も可能となります。
今回のように多用途の室を計画する場合、その音場設定をどの部分に焦点を合わせるべきか非常に悩むところです。 本計画では、お客様からの『演奏していてデッドに感じ過ぎない自然な音場』との明確なリクエストに添えるよう音場計画をしました。
3. 特徴的な部分の紹介
地下1階のそのスペースは、もともと音楽練習室のような仕様で、通常の室よりは強固に造られたものでした。 しかし、スタジオを造るにはもっと力強い床や壁が必要です。勿体無いですが、新しいこの室は誰にも使用されることなく、 スタジオを造るために解体されることとなりました。
- a) 遮音層
最初に取り掛かったのは遮音層の工事ですが、この中でも特徴的なのは外周部のブロック壁工事で、 それは一石三鳥のアイディアでした。一つは防水二重壁として、二つは遮音壁として、 三つはパワーのある音に負けない強固な音響壁としての機能を果たしてくれるものです。最終的には仕上壁に隠れてしまう所ですが、 音への寄与は大きい部分です。また、浮床も勿論コンクリートを打設し、がっちりとした床を造っています。

写真-1 ステージ側全景
- b) ステージ廻り
スタジオに入って最初に目に飛び込んでくるのはステージバックのレンガ壁だと思います(写真-1、2)。 ドラムやベースの重たいパワーをもメインフロア側へしっかり返すために造ったものです。鉄骨で下地を建てたうえに、 凹凸をつけてレンガを積み、幾らかの拡散性も持たせています。さらに中央部は透かし積みとし、 裏に空調レターンを仕込み設備機能とデザイン的なアクセントの役割を与えています。また、ステージの床は素材にこだわりました。 角材で頑強に組み上げた下地に、特注の35?厚のヒノキ板張り仕上としています。

写真-2 ステージ
- c) 電動リフト
イベント使用時など、ステージ上に置かれたピアノを移動する場合は、フロアに埋め込まれた電動リフトを用いて降ろすことができます(写真-3)。 このときSR・照明スペースの下部を収納として利用できるように配慮しました(写真-4)。

写真-3 電動リフト
- d) スタジオ天井面
メインフロアの天井は、扇型の天井反射板を後方へ傾けて吊るし、天井・床間でのフラッタリングを回避すると共に、 自然な響きが残るように考えました(写真-6)。ただし、全面反射性にすると音場がライブになり過ぎてしまうため、 部分的にクロスパネルをはめ込み吸音性も加えました(反射面はざらざらした特殊左官塗り仕上)。 反射板の裏はその上の天井面に化粧グラスウール貼りを施し、吸音スペースとしました。

写真-4 SR・照明スペース(中二階)、下部収納

写真-5 SR及び照明卓

写真-6 天井反射板(特殊左官塗り仕上)
- e) スタジオ壁面
壁面も同様の考え方で、自然な響きを返すように反射板を上方へ傾けて設置しました(写真-7、9)。また、 反射板裏の壁は吸音クロスパネル仕上げとしています。なお、写真では解り難いですが、壁の反射板はつるっと綺麗なUV塗装仕上としているため、 実際にみると想像以上のインパクトがあります。
- f) 残響調整(可変)
本スタジオでは、ライブパフォーマンスとレコーディングの両方を想定していることは既に述べました。 実はこれまでのややライブ気味とも思える音場設定は、100名程度の聴衆が入った場合にも響きが不自然にデッドにならないように考慮したものでした。 逆に考えると、レコーディングなどではもっと響きを抑えたくなるはずです。そこで、響きに調整代をつくる必要があると考え、 壁反射板の手前に厚手のカーテンを取付け、電動で開閉できるようにしました(写真-7、8、9、10)。
その効果ですが、カーテンオープン時で約0.4秒/1KHz(広い帯域でほぼ0.4〜0.5秒というフラットな残響時間となっています。)であるのに対して、 カーテンをクローズした場合は約0.1秒残響時間が短くなります。残響可変巾としては、250Hz、250Hz、500Hzで約10%、 それより高い周波数帯域では20〜25%程度確保できました。数値としてみると巾が小さいようにも感じますが、 実際の聴覚上での比較では明らかに差異があり、その効果を確認することができました(図-2)。


写真-7 壁反射板
(UV塗装、最上段は左官塗り仕上)写真-8 カーテン クローズ


写真-9 カーテン オープン 写真-10 カーテン クローズ

図-2 残響時間比較のグラフ
- g) コントロールルーム
平面的にはコンパクトなコントロールルームですが、天井高を高く(約3.2m)とることができましたので、 ジャストサイズの凝縮感があり心地よい空間になっています(写真-11、12)。それでも天井吸音層としては、 一番ふところがある所で約800?確保し、サウンドトラップなどで音場の調整を行なっています。 室の幅に対して天井が高いことは好影響を及ぼしていて、抜けの良いクリアなサウンドを聴くことができます。 スピーカーの背後まで廻りこんでしまうのぞき窓の高さを、極限まで小さくし、その影響をできる限り排除したことも寄与していると思います。 なお、小さいのぞき窓のために遮られた視界は、スタジオに設置したカメラを使い、正面の液晶モニターに映し出して確認することができます。
システムもコンソールにSSL AWS-900を据えPro Toolsを駆動しており、ラージモニター(NES)、 サラウンドシステム(Air 6)も導入しています。余談ですが、ラージモニターの選択には幾度か弊社試聴室までお越しいただき、 比較試聴を繰り返した結果、弊社製NESスピーカーに御決定いただきました。

写真-11 コントロールルーム全景
写真-12 正面
- h) バーカウンター
すべてをコーリアン(人造大理石)で造り上げたそれは、まるで無垢の大理石から削りだしたかのような重厚感に溢れています(写真-13)。 UV塗装の反射板に囲まれると、とてもマッチング良くきれいに納まります。フロア全体の照明を落とし気味にして、 カウンター上部のガラスペンダント照明をぼんやりつけるなど、この一角だけの演出をすることもできます。

写真-13 カウンター
- b) ステージ廻り
4. おわりに
私にとって、今回のプロジェクトはきっと忘れられぬものになると思います。最盛期には、
ほとんど寝る間もないほどの忙しさではありましたが、関係各社の皆様の力を結集させて、
想い描いたものが日々出来上がっていく、というのはとても楽しいものでした。
最後に、このプロジェクトの完成まで御世話になった皆様に心より感謝したいと思います。
